今年の日本海側の地方は異常なほどの豪雪に見舞われ大きな被害に苦しむ映像が毎日テレビで報じられている一方、伊豆では殆ど雨は降らず乾燥化となっており、どちらの状況も生物にとって過酷な状況である。大都会に比べ伊豆は緑豊かに思われるが筆者が40数年前に引っ越して来た時と比べれば緑地の減少は筆舌に尽くしがたい程である。しかし僅かな緑地に目をやればそれでも小さな野草が命を紡いでいて、先日枯草の間から顔を出した愛らしい野草をご紹介したい。
陽だまりに青空の破片を散りばめたような瑠璃色の小さな花の群落が環境の変異にも関わらず、凛として空を仰ぐ本種はアフリカ原産の外来種で在来種のイヌノフグリに似て花が大きいのでオオイヌノフグリと呼ばれている。4枚の花弁は瑠璃色に染まり、その1枚は特に濃くなっているが下部は色が抜けて白く浮かび上がり、昆虫に蜜の在処を知らせている。雄蕊雌蕊の基部は黄色みを帯び瑠璃色は少し薄くなるが、そこから放射状に延びる濃い瑠璃色の線が更に瑠璃色を浮き立たせている。特徴的なのは雌蕊を挟んで立っている2本の雄蕊の太さと花粉が濃紺である点だが、花がしぼむ夕刻には雄髄は湾曲して雌蕊に絡みつき他家受粉できなかった一日花の執念を垣間見る思いがする。葉や茎にはびっしりと毛が生えアリ等に蜜を盗まれないよう対策を取っていながら、種には甘い脂肪酸をまぶしてアリに運ばせると言う巧妙な戦略を駆使している。フグリとは陰嚢を意味するが結実を見れば命名者の感性に納得なさる筈である。
(山口康裕)
星空を思わせる瑠璃色
凛として空を見上げる花冠
蟻を拒む葉茎の毛
紫と白のグラデーション