ノコンギク

伊藤左千夫の小説「野菊の墓」の中で主人公の政夫が物静かで上品な従姉の民子に野菊を摘んで「民さんは野菊のような人」と言った場面がある。後年になってこの野菊の正体が気になり、読み返すと「山畑の綿を摘みに行く」となっている。
山野で主に目にするのはシラヤマギク、ノコンギク、シロヨメナ等があるがシラヤマギクは舌状花に隙間があり寂し気で、シロヨメナは標高の高い場所を好むことから、「野菊の墓」の野菊は淡い紫色のノコンギクに違いないと筆者は勝手に思い込んでいる。
ノコンギクは日本固有種で名前の如く紺(紫)発色させる菊であり、キク科特有の舌状花は全て雌花で頭状花を雌蕊(めしべ)のY字型柱頭が取り囲み中央の筒状花が両性花となっている。両性花に最初雌蕊が見えないのは雄蕊(おしべ)が雌蕊を囲んで合着して筒を作る集約雄蕊のためであるが、成長してそこから独特なリング状の柱頭が伸び出す。中央部は黄色、緑そして舌状花の紫のベールを纏う白の色合いが融合し、その美しさは正に「民さん」に相応しい鮮美透涼と表現したい。

 

 

(山口康裕)

ノコンギク(左)とコンギク(右)

特徴の長い冠毛


舌状花の柱頭

撮影地:小室山

 

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