時代の転換とヒメシャラ

真冬の天城山は樹木の観察には打ってつけのフィールドである。
ブナを筆頭に全ての落葉樹たちは葉を落とし衣類を脱いだ裸体のごとく体形(樹形)を晒しだしてくれるからである。

装飾を外した木々たちは、その本質を露わにし、素顔をアウトラインとして空には投影している。
アウトラインを通してその木を同定するのはなかなか難しいが慣れてくると向こうからは自己紹介をしてきてくれるので、ついつい時を忘れ彼らとの語らいが長くなり、気づくと下山の時間を過ぎてしまうことも多々ある。

この時期の天城山で特記すべきはヒメシャラで時間が止まった如く静寂な落葉広葉樹林の中で一人異様な姿を目立たせている。
寒さで張り詰めた空気の中に在ってあたかも風呂上がりの赤みを帯びた裸体がここかしこに起立している光景は異様を超えて驚愕すら覚えると言っても過言ではない。
天城山はブナの森であった。

しかし近年ヒメシャラが林立し始めその勢いは優占種のブナを凌駕している。
天城山で今、目にしているこの光景は将棋界の藤井聡太プロが偉大な先輩達を凌駕する大きな時代の転換期を迎えているその光景なのかもしれない。

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