ジオガイドによる『よもやま話』北アルプス徳本小屋との再会 

北アルプス徳本小屋との再会                     日本山岳会 山口康裕

先日、高校生のボーイスカウトの登山訓練で穂高に行ってきました。北アルプスは海洋地殻由来の地質の伊豆半島とは異なりユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが潜り込み圧縮されて隆起した秩父古生層で構成された山岳で、至る所に花崗岩の露出が見られ伊豆の人間には興味をそそる地質と言えます。

私の所属する日本山岳会山岳研修所は上高地の河童橋のすぐ近くに位置しており、この山岳研修所はかつては今生天皇が皇太子の時に逗留した山荘で、今回ここを起点に訓練を行ったのですが、今や河童橋はファッショナブルな装いでスマホ片手の外国人観光客でごった返す喧騒な場所と化しており、登山姿の私達は正に場違いな人種となっていました。

訓練最終日に私が45年前に訪れた日本の登山発祥の地である北アルプス最古の山小屋を若者達に見せたくて徳本峠を目指しました。幾つもの沢を渡りましたが、大きな沢には立派な木橋が、かつての1本のロープがかけられ崖には木製の梯子がかけられ、時の流れを感じつつも一人しか通過できない細いルートが今も残されており、若かりし時の景観が走馬灯の如く脳裏に浮かび当時の風の音、草木の匂い、沢の水音が蘇って来るのでした。

徳本峠が近づくにつれてはやる気持ちを抑えながら若者たちに、上高地の名を世界に知らしめた日本の山岳登山の父、ウォルターウィンストンが逗留した当時の面影を残す百年前の山小屋が待っていることを伝えずにはいられませんでした。

途中、センジュガンピ、ヤチトリカブト、コオモリソウ、オオダイコンソウ、ハクサンオミナエシ、カニコオモリ、トモエソウ、ヨツバヒヨドリ、ミヤマシャジン、ソバナ、センブリ等の花に交じり真っ赤な果実を付けたナナカマドが我々を迎えてくれ懐かしい光景に暫し歩みを止め振り返ると木々の間に明神岳、前穂高が聳え立ち、そのダイナミックな景色は45年前と変わっていませんでした。

徳本峠は下の上高地とは打って変わって静謐に包まれ、多くの岳人が憧れたあの山小屋は当時の雰囲気を残す母屋以外は立て替えられていましたが、母屋に足を踏み入れると大正・昭和の時間が連綿と続いていて高校生達には正にジェラシックパークとの遭遇であり、私にとっても筆舌に尽くしがたい過去との遭遇であった。

 

 

写真1:夜明けの河童橋

 

 

 

 

 

写真2:沢筋に咲くセンジュガンピ

 

 

 

写真3:徳本小屋

 

 

 

写真4:悠久の面影を残す母屋内部

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