ジュウガツザクラ(バラ科サクラ属)

 

冬に咲く桜に寒桜があるが、秋から冬にかけて咲く桜があり、名を十月桜と言う。良く見ると八重咲きでツボミは深紅、咲き出しは濃いピンク、開花すると淡いピンクもしくは白となり薄い絹状の質感を持つ花弁の筆舌に尽くしがたい美しさは寒冷期において正に妙麗優美と呼ぶに相応しい桜である。
本種はエドヒガンとマメザクラの交配種であるコヒガンザクラを基にした園芸品種で秋から冬そして春の二季に開花を迎えるが、八重でなく一重の場合は同じくコヒガン系の栽培種のシキザクラとなるので意識して見て頂きたい。
寒冷期に桜が咲くのは不思議に思われるかも知れないが、桜はそもそも寒冷地のネパール山地を発祥の地としており、春に咲き出す諸々の桜も一度冬季の寒冷の気温に晒されて初めて開花に到達するのもその名残である。この事実を知った上でこの小さな優美な花冠を眺めれば遠い祖先のDNAを今もって律儀に保持し、春を豪華絢爛に染め上げるエドヒガンやソメイヨシノのようなサクラ属の代表種たる彼等らに先駆けて冬空にまるで春の到来を思わせる可憐な花姿を披露することで、我こそが桜の本則なのだと主張しているかのようである。
花期:10月~1月、3月~4月 分布:全国(園芸種のため)

 

(山口康裕)

妙麗なグラデーション

冬季の春景色

象の鼻のように長い雄蕊

 

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